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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)700号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴はこれを棄却する旨の判決を求めた。

事実並に証拠の関係は、

控訴代理人において、仮に中之島村農地委員会が自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条第一項第一号及び第二号によつて本件買収計画を樹立したものと認められないとするも、少くとも同条第一項第一号又は第二号のいずれかに該当するものとして本件買収計画を樹立したものであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原判決の末尾添附の目録記載の土地(以下本件土地と称する)がもと訴外中林権四郎の所有であつたが同人は右土地を昭和十一年三月二十七日訴外西木源作へ売渡し、西木源作は同土地を昭和二十二年三月四日被控訴人へ売渡しそれぞれ被控訴人主張の日時所有権移転登記を経由した事実、西木源作は本件土地を中林権四郎から買受けると同時にこれを中林権四郎に期間を定めないで賃貸し、中林権四郎はその後昭和十二年四月中補助参加人大竹藤作に転貸し、西木源作がその後右転貸借を承認した事実、大竹藤作が昭和二十三年十二月迄の間に自創法第三条の規定により買収せられた中之島村所在の田一町四反九畝二十四歩、畑四畝二十二歩の売渡を受けた事実、大竹藤作が昭和二十三年四月二十六日中之島村農地委員会に対し本件土地の買収の申請をし、同委員会が右申請を相当と認め本件土地について買収計画を定め同年八月三十一日公告をした事実、これに対する異議の申立から訴願棄却の裁決書の送達に至る迄の経過が被控訴人の主張のとおりである事実はいづれも当事者間に争がない。

そして成立に争のない甲第四号証の一、二、甲第五号証の一、二、甲第六号証の一、二乙第二号証、乙第三号証、乙第五号証、乙第七号証、乙第八号証、乙第十一号証、甲第十五号証の一、二、原審証人山谷信一、曾我勝之進(第一、二回)大竹藤作(第一、二回)、当審に於ける証人入沢勘次郎(第一回)曾我勝之進(第一、二回)、長谷川吉五郎、小柳三郎次、補助参加人大竹藤作(第一、二回)の各供述(但し後段認定に牴触する部分を除く、以下同様につき省略する)を綜合すれば大竹藤作は前段説示の同人が自創法第三条の規定によつて買収せられた中之島村所在の農地の売渡を受けてこれが自作農となるべき者として本件土地について賃借権を有し且本件土地は同人の農業経営に絶対に必要な農業用物件(農業用施設)であることを理由として本件買収の申請をしたものであり、中之島村農地委員会に於ても右申請に対し大竹藤作が本件土地に賃借権を有しているか否かを重視して審査を遂げ、同人に賃借権があるものと認め且同人が自創法第三条の規定により買収する農地について自作農となるべき者としてその農業経営のため本件土地が藁鳰堆肥その他の肥料の積場農作物の乾燥場として必要欠くべからざる農業用施設であるとの見解の下に本件買収計画を樹立したものであることが認められる。然らば本件買収計画樹立の根拠として中之島村農地委員会の認定した事実は正に自創法第十五条第一項第一号及び第二号に該ること明白であり本件買収計画は同条項により樹立せられたものと認めるを相当とする。尤も甲第十五号証の一、二の買収計画通知書には本件買収が自創法第十五条第二項による旨記載してあるが、右は前段認定の資料殊に原審証人曽我勝之進(第二回)の証言によつて認められるように今迄法文の条項の正確な読方に習熟しない村農地委員会の係員が通知書を記載する際誤つて記入したものでありこの一事によつて到底前記認定を左右することはできない。

成立に争のない甲第八号証の記載内容中右認定に反する部分及び原審証人山谷信一、原審(第一、二回)並に当審(第一回)証人曽我勝之進、当審証人入沢勘次郎(第一回)、小柳三郎次の各証言中本件買収計画が自創法第十五条第一項の第一号か又は第二号のいづれか丈によつてなされた趣旨の部分は前記認定に供した資料に照し当裁判所の採用しないところであり、その他被控訴人の立証によるも以上の認定を覆すに足りない。

次に被控訴人は昭和二十一年十月頃西木源作と中林権四郎との間の本件土地の賃貸借契約は当事者の合意によつて解除せられ、その頃中林権四郎と大竹藤作との間の本件土地の転貸借契約も当事者の合意によつて解除せられたと主張することろ原審証人西木源作(第二回)の証言によりその真正に成立したことが認められる甲第十四号証の一、二原審証人西木源作(第一、二回)中林国太郎(第一、二回)山崎岩作、大竹藤作(第一、二回)当審証人中林国太郎の各証言、原審に於ける被控訴本人、当審に於ける補助参加人大竹藤作(第一、二回)の各供述、原審並に当審に於ける各検証の結果を綜合すれば、中林権四郎が西木源作から本件土地を賃借するに至つたのは当時同人は手広く木材業を営んで居り、木材は刈谷田川を筏で運んでいたところ、本件土地は刈谷田川の堤防に隣接し製材所にも近かつたので木材置場として使用するためであり、賃借後木材置場に使用せられていた事実、その後中林権四郎は事業を縮少し木材の運搬には自動車を使用するようになり木材置場として使用せず空地のまゝ放置していたため、本件土地に隣接して居住し農業経営上藁鳰堆肥その他の肥料の置場、農作物の乾燥場として他に適当の空地を利用するの便宜なく困窮中の大竹藤作の希望により、当時西木源作の了解を得ずに前記の如くに大竹藤作に転貸した事実、大竹藤作は転借後本件土地を右の用途にのみ使用して来てその他の用途に使用したことは絶えてないところ、西木源作は大竹藤作の土地使用を知り中村権四郎にこれを追究したため、中林権四郎は西木源作に於て必要のときは何時にても大竹藤作より返還を受け西木源作へ引渡すことに大竹藤作から了解を得てある旨述べたため前述の如く西木源作に於ては右転貸借を承認するに至つた事実、然るに被控訴人の父岩作は昭和二十一年十月頃次男清、三男幸作の居住家屋建設のため西木源作に対し本件土地の賃借を申込み西木源作はこれに応じ、中林権四郎に対し賃貸借の解除を申出たところ、中林権四郎も従前の経過から直ちにこれを承諾し、茲に本件土地に対する西木源作と中林権四郎との間の賃貸借契約は合意により解除せられた事実を認めることが出来る。然しながらこの際大竹藤作に於ても中林権四郎よりの申出により本件土地の転貸借を解除することを承諾した旨の原審証人西木源作(第一、二回)中林国太郎(第一、二回)山崎岩作、当審証人中林国太郎、原審に於ける被控訴本人の供述は次の認定事実から輙く信を措き難い。即ち(一)後段に判示する如く、本件土地は大竹藤作に取りその農業経営に絶対に欠くことの出来ない土地であり、同人は転借後十年近い長期間本件土地を藁鳰堆肥その他の肥料、薪、長木等の置場や農作物の乾燥場として使用して来たもので、若し本件土地を失はんかその農業経営は一頓座を来し爾後の経営は不能となるべき状況にあり、従て同人が易々諾々としてその生計の根底を覆すが如き破目に陥るべき本件土地の返還を簡単に承諾するが如きことのあり得ることは容易に信ぜられない事情にあつた事実、(二)原審証人大竹藤作(第一、二回)当審に於ける補助参加人大竹藤作(第一、二回)の各供述、原審並に当審に於ける各検証の結果を綜合して認め得る被控訴人に於て大竹藤作が中林権四郎に対して本件土地の返還を承認したと主張する昭和二十一年十月以降現在に至る迄大竹藤作は依然本件土地を占有して従前通りの状態で本件土地の使用を継続している事実、(三)若し土地返還を承諾したとすればこれが承諾をした者が自ら賃借権ありとして土地買収の申請を敢てなすが如き鉄面皮の行為は余程の異例に属するところ、冐頭説示の如く大竹藤作は本件土地に対し賃借権あることを理由として中之島村農地委員会に対し買収の申請をした事実、(四)原審証人大竹藤作(第一、二回)山谷信一当審に於ける補助参加人大竹藤作(第一、二回)の各供述を綜合すれば、中林権四郎は前記のとおり西木源作から本件土地の返還を求められこれを承諾し直ちに大竹藤作に対し転貸借契約を解除して本件土地の明渡を求めることにその承諾を得べく交渉したところ、大竹藤作は従前の行懸りから、にべなくこれを峻拒する理にも行かず、さりとて直ちに快諾してこれが返還をする勇気もなく、曖昧な態度の下にその言葉を濁したに留まり、判然合意解除を応諾せず、本件土地返還を承諾しなかつたのが当時の真相であつたものと認めるのを相当とする。被控訴人その余の立証によるも到底右認定を覆して被控訴人主張の転貸借契約の合意解除の事実の存在を認めるに足りない。

然るに原審証人山谷信一、早川広吉、曽我勝之進(第一回)、小柳三郎次、大竹藤作(第一、二回)当審証人曽我勝之進(第一、二回)、小柳三郎次、当審に於ける補助参加人大竹藤作(第一、二回)の各供述、原審並に当審に於ける各検証の結果を綜合すれば、大竹藤作は古くから農を本業として本件土地転借当時田畑一町七反歩以上を耕作していたが、藁鳰積場、堆肥、肥料桶等の積場、農作物の乾燥場を所有せず毎年転々として空地を借りたり或いは堤の上を利用したり藁や籾は置場がなく刈谷田川の河原で焼く始末で農業経営に多大の不便と困難を感じていたところ、前記認定の事情により幸に本件土地を転借使用することになり、爾来本件土地を藁鳰、堆肥、その他の肥料、肥料桶等の置場又農作物の乾燥場として、本件土地の全部を農業経営のためのみに利用して来た事実、本件土地は大竹藤作の従前の農耕地のみならず、冐頭説示の同人が自創法第三条の規定により買収せられ、これが売渡を受けて農耕を営むべき農地の農業経営には尚一層必要にして欠くことの出来ないものであり、若し同人に於て本件土地の使用をなし得ないときはその農業経営は全く挫折するの惧れのある事実、本件土地は地目宅地なるもその使用状況を農業経営なる経済的立場から見れば、前記のとおり大竹藤作の農耕地と不可分に密接な関係の下に附随して利用せられている事実を肯認するに十分である。

尤も本件土地の南方約三十間の箇所に大竹藤作が宅地十七坪を所有する事実は控訴人の認めるところであるが、原審並に当審に於ける検証の結果によれば、右土地には部落民共有の井戸があることが認められるから、同土地を肥料の置場に使用することはその性質上不可能と考えられるから大竹藤作がこの土地を所有することにより本件土地の使用が必要でないとは云へぬ。

而して賃貸人が転貸借契約を承認して一旦適法な転貸借契約が成立した以上、賃貸人と賃借人との間の合意のみによつて賃貸借契約を解除しても転借人の承諾がない限り転借人の権利は消滅せず依然転貸借契約を以て賃貸人に対抗し得るものであるから、本件に於て前段認定のとおり本件土地に対する賃貸人西木源作と賃借人中林権四郎との間の賃貸借契約が当事者の合意によつて解除せられたとしても、転貸人中林権四郎と転借人大竹藤作との間の本件土地の転貸借契約が当事者の合意によつて解除せられなかつた以上大竹藤作はその転借権を西木源作に主張し得たものである。

然しながら冐頭説示のとおり被控訴人が昭和二十二年三月四日西木源作から本件土地を買受け同年九月九日これが所有権移転登記を受けた以上大竹藤作がその転借権を被控訴人に主張し得ることについては控訴人が何等の主張、立証をなさず、又これを容認し得る法律上の根拠もないから、大竹藤作は本件買収申請の当時本件土地に対して賃借権を有していたものと認めることは出来ない。

従て本件買収計画は自創法第十五条第一項第二号によつては、本件土地について賃借権の存在が認められない以上、その他の要件の有無を問はずこれを樹立し得なかつたものと云はなければならない。

次に以上認定の本件土地が、大竹藤作の従前耕作に係る農地のためには元より、自創法第三条の規定により買収せられ、同人がこれが売渡を受けて自作農となるべきその農地のためには更に一層必要なものであつて、即ち本件土地は同人の農業経営のために、藁鳰、堆肥その他の肥料桶等の積場農作物の乾燥場としてのみ本件買収申請当時迄十年以上の長きに亘つて使用せられ他の用途には絶えて使用せられたことなく地目は宅地ではあるが、農業経営なる経済的の目的の下には同人の耕作する農地に附随、従属して使用せられ、厳格なる法律上の観念である主物、従物たる要件は元より具備しないが、経済上の用途に於てはこれと全く同様の状態にあつたことは前段認定の事実によつて明かであるからこれらの事実に鑑みるときは本件土地は自創法第十五条第一項第一号に云う農業用施設と認めるを以て相当とする。

然らば本件買収計画は自創法第十五条第一項第一号によつて樹立したことは洵に相当であると云うべく、従て本件買収計画には被控訴人主張のような違法はない。

よつて本件買収計画は結局適法であり、これを認容した本件訴願に対する裁決も亦適法であるから、これ等を違法と主張する被控訴人の本訴請求は理由がないところ、当裁判所とその所見を異にして被控訴人の請求を認容した原判決は不当で本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

原審判決の主文および事実

一、主  文

新潟県南蒲原郡中之島村農地委員会が別紙目録記載の土地について定めた買収計画及び被告が右買収計画に対する原告の訴願を棄却した裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、其の請求の原因として述べた事実の要旨は、別紙目録記載の宅地はもと訴外中林権四郎の所有であつたが同人は昭和十一年三月二十七日これを訴外西木源作に売渡して同日その旨の登記を為し、右西木源作は同日これを右中林に対し期限を定めず賃貸したところ、中林は昭和十二年四月中右土地を訴外大竹藤作に対し西木の承諾を得ずして期限を定めず転貸した。その後西木は昭和二十一年十月頃中林との間に右土地の賃貸借を合意の上解除すると同時に中林も大竹との間に右土地の転貸借を合意の上解除した。そして原告は昭和二十二年三月四日右土地を西木より買受け同年九月九日その旨の登記を経由した、ところが右大竹は昭和二十三年四月二十六日右土地につき中之島村農地委員会に対して買収の申請をなし、同農地委員会はこれを相当と認めて自作農創設特別措置法第三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき右大竹が賃借権を有する宅地として右土地につき同法第十五条第一項第二号に依り買収計画を定め同年八月三十一日その旨公告したので原告はこれに対し同年九月八日異議の申立を為したが却下せられたので更に法定の期間内に被告に対して訴願をなしたが棄却せられ右裁決書は同年十一月二十三日原告に送達せられた。しかしながら前述の如く西木と中林間に於ける右土地の賃貸借ならびに中林と大竹との間に於ける転貸借は昭和二十一年十月頃合意解除により消滅したのであつて中之島村農地委員会が右土地の買収計画を定めた昭和二十三年八月三十一日当時に於いては大竹は最早右土地について賃借権を有しなかつたのであるからこれにつき右大竹が賃借権を有する宅地として本件買収計画を定めたのは違法であり、従つてこれを支持して原告の訴願を棄却した被告の前記裁決も亦違法であるから右両処分の取消を求める為本訴に及んだのであると謂うのであつて、被告主張事実中右大竹が昭和二十三年十二月までの間に被告主張の如く農地の売渡を受けたこと及び中林が右土地を大竹に転貸した後西木の承諾を得たことは認めるが中之島村農地委員会が右土地につき自作農創設特別措置法第十五条第一項第一号及び第二号に該当するものとして本件買収計画を定めたこと及び原告が右土地の賃貸人たる地位を承継したとの点はいづれもこれを否認する。仮りに本件買収計画が同法第十五条第一項第一号及び第二号により定められたものであるとしても右土地は同法第三条の規定により買収せられ右大竹が自作農となるべき農地の利用上必要な農業用施設ではなく又大竹が賃借権を有しないことは前記の通りであるから右第一、二号の何れにも該当しないものである。従つて何れにしても本件買収計画は違法たるを免れない、と陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として、原告主張事実中本件土地がもと訴外中林権四郎の所有であつて同人がこれを原告主張の日に訴外西木源作に売渡し次いで原告がその主張の日に西木よりこれを買受け何れも登記を経由したこと、右西木が原告主張の日に本件土地を中林に賃貸し、右中林がこれを原告主張の如く訴外大竹藤作に転貸したこと、中之島村農地委員会が原告主張の如く右大竹の申請により本件土地につき買収計画を定めその公告をなしたこと原告よりその主張の如く異議の申立、竝びに訴願がなされたがいづれも排斥せられ被告の裁決書が原告主張の日に原告に送達せられたことは何れもこれを認めるが右西木と中林との間に於ける本件土地の賃貸借及び中林と大竹との間に於ける転貸借が何れも原告主張の如く解除せられたこと及び本件買収計画が自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号に依り定められたものであることは否認する。右大竹は中林より本件土地を転借した後西木より明示若くは黙示の承諾を得たのである。そして右大竹は昭和二十三年十二月までの間に自作農創設特別措置法第三条の規定により買収せられた中之島村内所在の田一町四反九畝二十四歩、畑四畝二十二歩の売渡を受けたもので本件土地は同人が右農地につき農業を営む為藁鳰、堆肥、その他の肥料、薪、長木等の置場や農作物の乾燥場としてこれを利用しているのであつて右農地の利用上必要な農業用施設であるばかりでなく又大竹は前記の如く中林より本件土地を転借しているのであつて原告はこれを知りながら本件土地を買受け、西木及び中林との間に暗黙の合意によつてその賃貸人たる地位を承継したものである。そこで中之島村農地委員会は本件土地が前記農地の利用上必要な農業用施設であり又右農地につき自作農となるべき大竹が賃借権を有する宅地であると認め自作農創設特別措置法第十五条第一項第一号及び第二号により本件買収計画を定めたものであつて原告主張の如き違法はないと述べた。(立証省略)

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